JL1NIE ’s blog

趣味のアマチュア無線やプログラミングについて徒然と。

アンテナのシミュレーション(その1)

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はじめに
 ハムフェアで購入したDJ-G7、変更申請で送信機番号を間違えたおかげで補正依頼が出てしまい未だに審査中の状態です。この間に1.2GHz用のパッチアンテナの設計を電磁界シミュレータを使ってやってみることにしました。

準備

 アンテナシミュレータではモーメント法を使ったMMANAがポピュラーです。今回は誘電体上のパッチアンテナのシミュレーションをしてみたかったのでFDTD(時間領域差分法)といわれるシミュレーション法を実装したOpenFDTDを使ってみました。各手法の違いについてはRFワールドの特集号に詳細がありますのでそちらをご覧ください。

 まずはこちらの記事を参考にインストールします。OpenFDTDはNVIDIAのCUDAライブラリに対応しておりGPUをお持ちの場合はシミュレーションを高速化できます。自宅PCには旧世代のGPUですがGTX980が搭載されているため、こちらからCUDA 10.1と最新のドライバーをインストールしておきました。

モデルを作ってみる

 まずは単純なパッチアンテナから作ってみました。通常、テフロン基板など誘電率の低い基板の上にパターンを切って作るようですが、手始めに真鍮板を切ってグラウンド板の上に載せる想定でシミュレーションしてみました。

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 上図でX軸方向が104mm、Y軸方向に100mm、凡そ1295MHzのλ/2となっています。グラウンド基板との距離は5mm、給電点は中心からX軸方向に19mmオフセットしています。グラウンド基板は300mm x 300mmとかなり大きめにとっています。シミュレーション領域も300mm x 300mmとし周囲にPML(Perfect Match Layer)と呼ばれる吸収境界条件を設定し、計算領域が無限の場合の電磁界分布をシミュレーションできるようにしています。

 シミュレーションのメッシュサイズは当初粗目に設定し、シミュレーションを繰り返しながらエレメントサイズや給電位置を決定。結果の傾向を見ながらメッシュサイズを増やしていきました。最終的にはX軸方向を300、Y軸方向を100、Z軸方向を20に分割しています。

 OpenFDTDではシミュレーションの収束条件を全領域の平均磁場・平均電場がピーク時から所定量以下になった時にシミュレーションを終了します。今回は収束判定条件を1000分の1に設定したところ13200回の繰り返しで収束しました。i7-4790@3.2GHz 8スレッドで300秒以上とかなり重たいシミュレーションです。CUDAを使うとかなり高速化されGTX980でも30秒ほどでシミュレーションが完了しました。

 こちらがリターンロスのシミュレーション結果です。1295MHzで-27.5dB、バンド内も-20dB(VSWR≒1.2ぐらい)と優秀です。

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 ゲインは10dBiほど。誘電体の基板の上に載せていないためサイズが大きいですが、おかげでダイポール2.15dBi、ループ3dBiにくらべるとゲインは随分高くなりました(但し実測ではサイドローブなどがでることから6dBi程度になることが多いようです)。

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パッチアンテナアレーのシミュレーション

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 次にパッチアンテナを二つ並べたアレーアンテナをシミュレーションしてみました。本来であればエレメント間を1λは開けたいところですが、A4ファイルケースに入れて運ぶことを前提にグラウンド基板は160mm x 295mm、エレメント間隔は約0.8λ弱(175mm)、としました。エレメント間隔を確保するためパッチ幅は80mmまでスリムにしました(帯域が狭くなります)。また共振点がずれるためグラウンド板とエレメントの距離を6mmにしてあります。

 こちらがリターンロス。若干下側に周波数がずれていますがバンド内で-20dB以下であれば、メッシュの取り方で結果が変わってくるので気にしなくて良いようです。f:id:CentralAttack:20190914035932j:plain

 こちらが肝心のゲイン。エレメント間隔を十分に取れなかったりグラウンド板との距離を取れなかったことからサイドローブが出てしまい、12dBi弱。3dBアップという訳には行かなかったようです。

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 次は若干ヤケクソ気味でエレメント間隔0.8λ(180mm)、グラウンド板までの距離を40mmとした豪華4ele版です。グラウンド板が340mm x 340mmもあり、あまり持ち歩きたくないサイズ。

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リターンロスもまあまあ。

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ゲインも14.6dBiまで出てきました。

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OpenFDTDではアンテナの近傍界も表示することができます。Z=5としたパッチアンテナの電界はこちら。パッチの端部が最大振幅となる電圧定在波が発生していることがわかります。

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こちらはX=80としてアンテナを輪切りにした電界分布です。

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 あとは各々のアンテナをストリップラインで作ったQマッチ等でマッチングすれば使えそうですが、大きさとゲインとのトレードオフが微妙なところです。次は誘電体にエレメントを作ったらどうなるか、もう少しシミュレーションを続けてみたいと思います。(つづく)